研究活動について

病理部/病理診断科で行われている研究

病理部/病理診断科で行われている研究

トランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究、TR)とリバースTRとは?

医学研究を非常に大まかに分類すれば、対象や方法論などによって基礎研究、臨床研究(観察研究や治療介入試験など)、社会医学研究などに分けられます。病理学研究の多くは、このうち基礎研究や、観察研究として行われる臨床研究にあたります。

種々の疾病について培養細胞や動物実験などによる研究で見いだされた現象や重要な分子などが、ヒトの体内や病変で実際に起こっているかどうかを確かめ、ヒト疾病の診断や創薬など治療につなげていく(橋渡ししていく)研究手法は「橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ translational research, TR)」と呼ばれています。これに対し、逆にまず実際のヒト疾病の組織や細胞の中で観察される形態変化の分析や、疾病の臨床像の違いなどから着想を得て、なぜこのようなことが起こっているのか、どのような意味があるのかを、ヒトの診療残余検体などを用いてタンパクやゲノム、遺伝子などの分子レベルで突き止め、疾病の新しい診断基準や診断マーカー開発、疾病のコンセプトの提唱などにつなげていく研究手法はリバースTRと呼ばれます。もちろんTRとリバースTRは相互排他的なものではなく、お互いに往来したり補完したりする性質のものですが、後者は臨床的実用化により近い距離にある場合が多いことは想像に難くないことでしょう。患者さんの病理所見・細胞所見の分析を日常的にたくさん経験している当科が、後者の研究手法を得意としていることもご理解いただけると思います。

こんなことに興味をもって研究が進められています

  • 病理診断・細胞診断の質的向上に直結する研究
  • 治療選択を左右する新しい分子マーカー等に関する研究
  • 組織形態・細胞形態にヒントを得た疾病の本態や特性の理解に資する研究
  • 病理組織や細胞診標本の作製技術の改善や検証に関する研究
  • 多施設共同臨床研究などの治療介入研究への協力
  • 学内外の他診療各科や教室等との共同研究
  • 貴重な症例経験を報告するための研究

例えばこんな研究が行われています:最近発表したトピックから

最近数年間に当科から論文発表された研究の一部をご紹介します。

1. 肺・縦隔・胸膜腫瘍に関する研究

同一肺内の衝突がん各々に、異なる発癌要因を
推定させる遺伝子異常が検出できた

喫煙歴とアスベスト曝露歴のある患者の一つの切除肺内に、原発性肺腺癌と悪性胸膜中皮腫が合併していることが判明した。それぞれの腫瘍組織(ホルマリン固定パラフィン包埋後)からDNAを回収して遺伝子コピー数変異を解析したところ、本例の悪性胸膜中皮腫組織からはアスベスト曝露後の中皮腫によくみられる染色体9p21.2-3のコピー数欠失が認められたが、一方の肺腺癌組織にはアスベスト肺癌よりも喫煙関連肺癌でみられる遺伝子コピー数変異が含まれていることがわかった。病理形態診断に基づくこうした解析技術により、がんの発生要因に関連するゲノム異常情報が得られることが示された。

Naka, T., et al. Comparative genetic analysis of a rare synchronous collision tumor composed of malignant pleural mesothelioma and primary pulmonary adenocarcinoma. Diagn Pathol. 2016 Apr 18;11:38. doi: 10.1186/s13000-016-0488-0.

2. リンパ系腫瘍に関する研究

硝子体かん流液セルブロックを用いた
病理診断の有用性が明らかとなった

眼内悪性リンパ腫の臨床像は慢性ぶどう膜炎と類似し、両者の鑑別が問題となる。確定診断のためには硝子体液採取が行われるが、検体量が僅少でアーチファクトを伴いやすいため、病理診断に難渋することも多い。今回、我々は33例の硝子体かん流液セルブロック標本のレビューを行い、眼内悪性リンパ腫12例を非悪性リンパ腫症例21例と比較検討した。組織学的には悪性リンパ腫症例では出現細胞数が多く、大型で核縁不整な異型リンパ球に加え、ghost状の壊死細胞の出現が特徴的であった。硝子体かん流液セルブロック検体による病理診断は背景所見の評価や免疫染色の併用を行うことにより、眼内悪性リンパ腫の診断に有用であることが示された。

Kanno-Okada H. et al., Cytopathologic findings of cell block materials from the vitreous: Diagnostic distinction between intraocular lymphoma and non-lymphomatous diseases. Pathol Int. 2017

3. 膵・胆道系腫瘍に関する研究

肝外胆管癌の上皮間葉移行は予後不良因子

癌の発育や進展と関連が深いとされる上皮間葉移行Epithelial–mesenchymal transition (EMT)について、肝外胆管癌では初めて網羅的にEMT関連蛋白やカドヘリンスイッチの臨床病理学的意義を検討した。12個のEMT関連蛋白の変化を117例の肝外胆管癌から作製した組織マイクロアレイ(TMA)を用いた免疫組織化学染色(IHC)で確認し予後との関係を調査した。単変量および多変量解析により、N因子に加え、E-cadherin、N-cadherinおよびS100A4の発現が独立した予後因子であることが判明した。またカドヘリンスイッチが予後不良と有意に関係していることを示した。このような予後不良群を選別することは術後の追加治療や厳重なフォローアップに有用な情報を提供するものと思われる。

Nitta, T., et al. Prognostic significance of epithelial-mesenchymal transition-related markers in extrahepatic cholangiocarcinoma: comprehensive immunohistochemical study using a tissue microarray. Br J Cancer. 2014 Sep 23;111(7):1363-72. doi: 10.1038/bjc.2014.415. Epub 2014 Jul 31.

4. 細胞診断に関する研究(症例報告)

【症例研究】IgG4関連疾患の診断に
体腔液細胞診とセルブロックは有用

IgG4 関連疾患における体腔液中の細胞所見に関する報告は少ない。症例は70 歳台、女性。CTにて両側胸水、心嚢液貯留、胸膜の軽度肥厚を認めた。血中IgG およびIgG4とも高値で、他の臨床所見からもIgG4関連疾患が疑われたが、組織生検標本や細胞診標本でのIgG4陽性形質細胞の証明や形質細胞腫瘍の否定が困難であった。穿刺胸水の細胞像では異型の乏しい形質細胞が多数見られた。胸水セルブロック切片を用いた免疫染色にてIgG陽性形質細胞の約50%強がIgG4陽性を示した。Ig軽鎖制限は認めず、IgG4関連疾患に伴う形質細胞浸潤と判断した。セルブロックを併用したことによりIgG4陽性形質細胞の証明や腫瘍性疾患の除外が可能となった。IgG4関連疾患の診断のためには体腔液細胞診とセルブロック作製は有用な情報を提供する。

胸水中にIgG4陽性形質細胞浸潤を証明できた、IgG4関連疾患と考えられる一例.吹谷美佳、他.日本臨床細胞学会雑誌、2017、印刷中.

IgG陽性形質細胞の約50%強がIgG4陽性を示した。Ig軽鎖制限は認めず。

大学院進学と学位取得

北海道大学大学院医学院 分子診断病理学教室のこと

病理部/病理診断科の医師・臨床検査技師は、定められた資格要件を満たし、かつ試験に合格すれば医学院分子診断病理学教室(病理診断科教授・松野が教授を兼務)の大学院生(基本は博士課程4年、修士課程2年)として進学することができます。進学時期の考え方については後述します。

[分子診断病理学教室 主要研究内容]
  1. 外科病理診断学(細胞病理診断学を含む)の研究
  2. 新しい分子マーカーを用いた病理学的診断法の開発・応用に関する研究
  3. 病理診断の精度向上と標準化の推進に関する研究
  4. 臨床病理学的解析を基盤とする種々の臓器がんの生物学的・臨床的特性の解明

希望があれば他教室の大学院を受験して進学することも可能です。

研究指導体制は? ―ゲノム・コンパニオン診断研究部門との連携―

分子診断病理学教室に進学した大学院生の多くは、主として研究に軸足のある姉妹教室のような北大病院 ゲノム・コンパニオン診断研究部門の指導・協力を、さまざまな形態で受けながら学位研究を進めます。

学位研究過程の一時期、学内外の他教室に研究指導を仰ぐ場合もありますが、いずれの場合でも、個々の大学院生の研究や学位取得については、それぞれの研究課題の領域によって決まる担当教員が責任をもって指導にあたっています。

大学院生として学位研究を行う意味は?

大学院に進学して博士や修士などの学位取得をめざすことは、最初から大学教員や研究者をめざしている一部のひとにはぜひ必要なことですが、病理診断医や病理検査技師として現場の医療に従事して行こうというひとにも大変役立つことは言うまでもありません。基本的な関連領域のカリキュラムを修め、また指導を受けながら自分の手で学位研究を成し遂げて論文発表し、同じような課題に興味をもつ研究者たちと真摯に意見交換したり、新たな課題を共有したりする経験は、病理診断・細胞診断に従事していく医師・技師にとって是非経験すべきことのひとつです。医療や医学の分野で仕事をするうえでは、日常業務のなかで検体を扱いながら、鏡検や診断を行いながら抱いた疑問やアイデアを、自分で立てたデザインに沿って実証することによって答えを発見したり、それを他のひとにも分かるように論理的に伝えたりすることが求められます。さらには自分たちの経験に基づいて誰も気づいていなかった新しいコンセプトや希少例の価値を世に問うたりすることも求められます。もちろんこうした研究活動は大学院に進学しなくても行うことができますが、大学院は問題発見・推論・検証、そして発表などの一連の過程を、学位研究として指導を受けながら短期集中的に学び、トレーニングする場として有効に活用されています。

大学院進学の時期はいつが良いのか? ―病理専門研修や病理検査技師としての研鑽と、大学院進学の関係―

大学院に進学すると、在学中は一定程度の時間とエネルギーを単位取得や学位研究に注ぎ込むことになります。病理専門研修や病理検査技師としての研鑽と学位研究、どちらの道もきちんとマスターすることは質量ともにヘビーですから両立は可能といえども決して簡単ではありません。ですから、一見遠回りに見えても、自分の人生設計のなかでそれぞれに軸足をおく時期を分けて目標をさだめ、最終的には両方をしっかり修得することをお勧めしたいと思います。

医師の場合は病理専門研修の開始と同時に大学院に進学する方もいますし、病理診断学の基礎を一定期間(例えば2年程度)トレーニングしたのち、大学院進学を考える方もいます(臨床系教室の多くは後者の考え方をとっています)。どのような研修プランで両方修得するか、それとも大学院には進学しない道を選ぶのか、本人の希望や個々の事情に合わせてさまざまなバリエーションが考えられますので、よく相談しながら、ときには軌道修正しながらフレキシブルに考えていくことになります。

【病理画像提供のご依頼について】
学会発表、論文投稿などに病理写真(肉眼像、組織・細胞像など)が必要な場合は、下記手順でご依頼ください。
  1. 症例報告の場合は診断担当病理医へ、また症例シリーズの解析研究などの場合は各診療科窓口担当病理医へまずご相談ください(不明の場合は病理部/病理診断科受付窓口(内線5716)へお問い合わせください)。
  2. 申込書(word)をダウンロードし、必要事項を記入、必ず暗号化した後に担当病理医へメール送付、またはプリントアウトしたものを病理部/病理診断科の受付窓口へ直接持参してください。
    (メール送付の場合、 暗号化に用いたパスワードは同じアドレスへ「必ず別メールで」お送りください。)
  3. 写真作成ができましたら指定の連絡先へ担当病理医からご連絡し、受け渡しや必要に応じ画像の説明など打ち合わせをさせていただきます。
学会・論文報告用 組織写真撮影依頼申込書ダウンロード
【ご注意ください】
  • 原則、ご発表の構想段階(抄録の登録前)でまずご連絡ください。
  • 写真のお渡しまで通常は2週間程度いただいています。余裕をもってご依頼ください。
  • 希少例の報告などご発表の内容によっては、当科から共同演者にお加えいただくようお願いする場合がございますのでご了承ください。
  • 個人特定につながりかねない情報の取り扱いにくれぐれもご注意ください。